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【OKUROJI酒場探訪記】#2
味とお値段に大満足。揚げたての天ぷらとワインのマリアージュ。

【OKUROJI酒場探訪記】#2 <br/>味とお値段に大満足。揚げたての天ぷらとワインのマリアージュ。<br>
グルメ

2020.12.26

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数々の酒場を渡り歩いてきた酒場ライターのパリッコさんが、主観たっぷりでお店をレビューする新企画、『OKUROJI酒場探訪記』。第二回は満を辞して東京に進出した大阪の名店『天ぷらとワイン大塩』。

Photo:Kyouhei Yamamoto  Text: Paricco

名物天ぷら「イクラカナッペ」の衝撃

実は今回ご紹介する「天ぷらとワイン大塩」、ミーハーなことに、先日TVで紹介されているのを見て、行ってみたいな〜と思ってたお店なんですよね。

名物天ぷら「イクラカナッペ」の衝撃

その時、最初にレポーターの方が食べていたのが、海苔の天ぷらの上にイクラがたっぷりと乗った創作天ぷら。僕はそれを見て、なるほどいわゆる「SNS映え」を意識した、話題作り重視のお店か、と、勝手に思った。きっと僕のような庶民が普段使いするようなリーズナブルなお店じゃないんだろうなぁと。ところが次の瞬間、値段を見て驚きました。なんとその「イクラカナッペ」なる豪華天ぷら、ひとつ190円だそうなんです! 続けてランチメニューが紹介されるとまたびっくり。なんと「穴子天定食」が890円。「お好み天定食」が790円。「野菜天定食」にはいたっては、690円! ここ、その美味しそうな天ぷらの見た目からは信じられないくらいリーズナブルなお店らしいぞ、と。近いうちに絶対に行ってみたいぞ、と。そう思っていたんです。

今回実際に訪れてみて、お手頃価格の秘密もしっかりと判明したのですが、そのあたりは追ってお伝えしていきますので、ひとまず一杯飲ませてください。

カウンター席がメインの店内はかなりコンパクト。そのなかに所狭しと天ぷらのネタメニューが貼られていて、王道から変化球まで、どれもが絶妙にお酒に合いそう。これほど注文に迷うお店もなかなかないですよ。できることならかたっぱしから食べつくしたい。しかしながら、胃の容量には限界がある。さて、今日はどう組み立てよう。これぞ酒飲みならではの、幸せな悩みというやつですね。

ワイン推しのお店ということで、まずは「スパークリングワイン CAVA」から始めましょう。シュワシュワと爽やかな音をたてながらグラスに注がれる様子に、すでにニヤニヤがとまりません。

ここに来たらどうしても食べてみたかった「イクラカナッペ」ですが、店主の大塩さんに聞けば「スパークリングワインにもばっちりです」とのこと。ならばそれからお願いします!

鮮やかな手つきでまたたくまに揚げ上がり、目の前にとんと置かれたあこがれの天ぷら。実物は、TVモニターで見た以上の迫力とシズル感で神々しくすらあります。

親指と人差し指でつかみ、ひと口でぱくり。……う、うわー! こ、これは!!

……ごめんなさい、感想あとでいいですか? その前にお酒もひと口。

……ふぅう〜〜〜。

ニコッ!

思わず自分のなかから一切の語彙が消え失せてしまうほどに美味しかったことは、僕の表情から伝わるかと思います。いや〜、イクラカナッペ、すごかった!

そもそもサイズが絶妙で、女性でもがんばればひと口でいけるかもっていう、ギリギリのボリューム感を攻めてきてるんですよ。それを口いっぱいにほおばる。すると、上の歯からプチプチ、下の歯からはサクサクと、別々の食感が伝わってくるわけです。そのあとはもう、口のなかがフレッシュな魚卵の旨味で大洪水! わかりやすい、夢のような体験。

ただ、さらにもうひと波やってくるのがイクラカナッペのすごいところで、思う存分にイクラを堪能したあと、今度は驚くほど良い海苔の風味が香ってくるんです。ふんわりとしたワサビのアクセントも効いている。見た目だけじゃなくて、ちゃんとこの形で出されている意味がある。たった190円で、ここまで深いストーリーを感じさせてくれるとは、なんてすごい天ぷらなんだ!

ルーツは大阪屈指の飲み屋街にあった

ところで、メニューのなかに「紅しょうが」があるのが気になります。これって大阪独特の天ぷらネタでしたよね。そこで大塩さんに聞いてみたところ、このお店の美味しさと安さの秘密が判明してしまいました。

「天ぷらとワイン大塩」は、こちらの店主、大塩崇史さんのお兄さん、大塩智史さんが4年前に創業したお店。その1号店は大阪の天満(てんま)にあるんだとか。天満といえば僕も大好きな、安くてうまい名店がひしめく飲み屋街で、その大衆的な雰囲気は大阪でも屈指。そんな天満で営業を続けているということが、そもそもの名店の証明というわけですね。もちろん、ここOKUROJIでも、すべて大阪と同じ値段でやられているのだそう。

お兄さんはもともと、飲食店の開業に際しての金融コンサルタント業をされていたそう。が、そういう場に立ち会ううち、なんと自分も飲食店がやりたくなってしまった。そこで、大好きだったお店でいちから修行することに。それが、イタリアン出身のソムリエが始めた名古屋の人気店「天ぷらとワイン 小島」というお店で、大塩のスタイル、技術、仕入れなどは、小島から継承されていたというわけ。

そんな話を聞いてしまっては、食べないで帰るわけにはいきません。「紅しょうが」、お願いします!

ルーツは大阪屈指の飲み屋街にあった

大塩の天ぷらは、あえてゆるめに配合した衣を使ってあげており、それにより、サクッと軽く、胃にもたれない揚げ上がりになるんだとか。もちろんこの衣で天ぷらを揚げるには、通常よりも高い技術が必要なんだそうですが。

実際まさにその通りで、衣が主張しすぎないからこそのホクホクの紅ショウガの美味しさが、僕が今まで食べてきたものとは段違い!

かつてこんなにもワインに合うしいたけがあっただろうか?

ここでワインをカリフォルニア産の赤、「ピノ・ノワール」にチェンジ。大塩さんに赤ワインに合う天ぷらをあれこれ聞いていて特に気になったのが「肉厚しいたけ」。

実は今日、日替わりボードの「松茸」の文字がずっと視界に入っていて、高級品とはいえひとつ390円。あとで思いきって頼んじゃおうと思ってたんですよ。ところが、ゴルゴンゾーラチーズを乗せて天ぷらにしたしいたけがワインに合うなんて話を聞いてしまったら、どうしてもそれを試してみたい。よし、今日の「キノコの部」は、あえてのしいたけに決まり! (いや、両方頼めばいいんだけど、ほら、また違う系も食べたいじゃないですか)

かつてこんなにもワインに合うしいたけがあっただろうか?

これがまたまた衝撃的。ちょっとクセがあって濃厚なチーズの香りと、強烈な椎茸の旨味。薄い衣に包まれたそれらを一気にほおばると、きちんとしいたけの食感は感じるのに、全体の印象としては一瞬で溶けてしまうような……? その未体験の美味しさは、思わず大塩さんに対して「一体何をしたんですか!?」と語気を荒げてしまったほどです。

そこへ赤ワインを流し込む至福……。ここに来てから、ひたすらこんな顔してますね、僕。

最後はメインディッシュ気分で「牛ヒレ」をいただきましょう。よく考えると牛肉の天ぷらって珍しいですよね。これがまた、赤身のはずなのに舌でぐっと圧をかけるだけでホロホロとほぐれしまう柔らかさに衝撃。もうずっと衝撃の連続。口いっぱいに牛の旨味が広がったところで、赤ワインをこくり。

……はぁ〜、こりゃあ、味と値段にうるさい大阪・天満の人たちにも支持されるわけだよなぁ。

【Profile】

大塩崇史(おおしお・たかし)さん
大阪出身で、旅行会社に勤めるサラリーマンだったが、4年前、同じくサラリーマンだった兄の智史さんが突然「天ぷらとワイン大塩」を開業。東京などにも店舗を広めていきたいという計画に協力するため、2年前に転職。師匠の店である「天ぷらとワイン 小島」での修行ののち、大塩で働くようになり、今年9月からは「天ぷらとワイン大塩 日比谷店」を立ち上げるため東京へ。趣味は食べ歩きで、休日にはイタリアンやフレンチの気になるお店へ出かけ、お酒を飲みつつ堪能。それがメニューのヒント探しにもなっているのだとか。好きな芸能人は福山雅治。OKUROJIで気になっているお店は、「酒肴日和 アテニヨル」。

【ライターProfile】

パリッコ
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半よりお酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『晩酌わくわく!アイデアレシピ』『天国酒場』『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』『ほろ酔い!物産館ツアーズ』『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『のみタイム』『“よむ”お酒』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)『酒の穴』。

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