関東でも大きな地震があった2021年の初頭、東日本大震災以降も各地で頻発している地震や、台風・大雨などによる自然災害が相次ぐ現実に不安を感じるという話題が、高円寺アパートメントの住人たちの間でも交わされるようになっていました。そこで、アパートメントの住人同士の関わりや地域との繋がりをサポートする役目を担う「まめくらし研究所」の“女将”ことサラさんに、当時の住人のひとりだったしずかさんが「住人のみんなで防災について話す機会をつくり、防災意識について共有することはできないだろうか」と相談を持ちかけたことがきっかけで、高円寺アパートメントの防災に関する取り組みが始まりました。
サラさん(「まめくらし研究所」店主/女将)
「しずかさんは2004年の新潟県中越地震を実際に経験していたので、ちょうどその頃、東京でも大きな地震が続いていたことを気にされていました。それで、今の高円寺アパートメントであれば、もしも何か災害が起きた時にはみんなで協力し合えるんじゃないかと、しずかさんから“一度みんなで一緒に考えたい”という相談を受けたんです。そこから、しずかさんが紹介してくれた“百年防災社(現:いのちとぶんか社)”という地域社会の防災のあり方について取り組みをされている会社にご協力いただいて、住人参加の“防災ワークショップ”を開くという形で、みんなで防災について考える場を設けました」
スンコさん(防災ワークショップに参加)
「防災って他人事じゃなくて、リアルな自分事じゃないですか。東日本大震災の時もいろんな不安に圧し潰されそうになりながら、ちょっと知り合いと会って顔を見て話せただけで、こんなにも気が楽になるんだっていうことを実感したんです。この場所なら、何かあった時にも芝生ですぐにそれが感じられるだろうし、万が一の時にお互い協力し合える関係性が築けたら、とても心強いだろうなと思いました」
チカさん(同じくワークショップに参加)
「私は東日本大震災を福島で経験していたので、言い方は変だけど、防災に関してはかなり気になって興味がありました。ワークショップをやろうと案内されたので、ぜひ参加してみたいと思ったんです」
シンドーさん(同じくワークショップに参加)
「このワークショップの成果のひとつとして、百年防災社さんからの提案でアパートメントとして独自の防災マニュアルを作成することが決まったんです。しずかさんを中心に有志を募って、僕も参加したんですが、やっぱり簡単にはいかなくて、完成までには結局1年近くかかってしまいました」
翌2022年に完成した高円寺アパートメントの「防災マニュアル」は、携帯用を想定して重要な情報だけに絞った簡易版と、スマートフォンやパソコンでの閲覧を目的にした詳細版のふたつが作られ、住人全員に配布と閲覧方法の告知が行われました。
シンドーさん
「住人たちの間で防災意識を共有するという目的は、ワークショップの開催とマニュアルの完成である程度は果たせたわけですが、そのうち最初の提案者であったしずかさんが、子供が生まれて他の地へ引っ越すことになって、そこから先の展開が特にない状態がしばらく続きました」
たおさん(ワークショップが開かれていた時期に入居)
「全部の回に参加したわけではなかったので、マニュアルをつくっているというのもなんとなく把握していた程度だったんですけど、やっぱり住人同士の繋がりがあってお互いに顔を知っている関係だということの安心感は大きいと思います。一度、夜中に大きめの地震があった時に思わず階段を下りて外まで様子を見に行ったら、隣の階段室からシンドーさんも出てきて、なんだか安心できたということがありましたね」
シンドーさん
「マニュアルができただけで終わりにしたのでは意味がないという気持ちはあったので、翌年にせっかく配ったマニュアルをみんなで活用するためにも、“防災訓練をやりませんか?”と提案しました。もともとマニュアルづくりの作業中から、しずかさんが“子供たちも増えてきたし、どうせならアパートメントで防災訓練のようなことをやりたい”と話していたので、それを代わりに伝えたまでです。その年は、たまたま3月11日が土曜日だったこともあって、できるだけ多くの人に参加してもらいたかったので、東日本大震災から12年目のその日に防災訓練をやることになりました」
サラさん
「まず、防災意識についてのアンケートを住人さんたち全員にお願いしたんですが、ほとんどの方が回答してくださり、訓練当日も半数以上の世帯がなんらかの形で参加してくれました。誰もが防災に関して、本当に身近な問題として意識しているんだと思います」
シンドーさん
「当日は防災マニュアルを改めて確認して、内容について参加者で共有したのと、地域の避難所である馬橋小学校までの道のりを実際にみんなで歩いてみました。その際に各自が普段から用意している防災グッズも持ち寄って、そのうち何人かの持ち出し用バッグを開けてみたんですが、僕も恥ずかしながら、中身を確認するのはこの時が初めてでした」
みゆきさん(防災訓練に参加した住人)
「防災グッズをちゃんと準備していたつもりでも、実はただそれだけで、中身の確認や点検はしていないことが多いですよね。それをこの機会に引っ張り出してきて確認するだけでも、防災訓練の意味はあったと思います。絶対持っていたほうがいいのに意外と入っていないものもあるはずなので、その情報交換をするだけでも、きっとプラスになる」
シンドーさん
「実際に訓練をやってはみたものの、じゃあ、何かしっかりした防災体制がこのアパートメントではできているのかと言われれば、そこは怪しいところもあると思います。でもこうやって、みんなで考えて行動してみたことは、決してマイナスにはならないはずで、この試みがいい方向に向かってくれることを期待しています。防災訓練を実施して、たくさんの住人が参加してくれたことをしずかさんに報告したら、彼女はとても喜んでくれました」
サラさん
「自分たちにとって必要だから、じゃあやってみようと集まって防災マニュアルや防災訓練ができていることって、実はすごいことだよなと思います(笑)。でもきっと昔はそれが普通だったんですよね。形式的すぎず、気負いすぎず、暮らしに寄り添った“自治”がアパートメントでは育ってきているのかなと思います。翌年も同じく3月の時期に、第2回の防災訓練を実施しました。住人さんの入れ替わりもあるので前回の内容も踏襲しつつ、災害時用の非常食をみんなで実際に食べてみるということもやっています。消費期限が切れそうな非常食を入れ替える時に、ただ取り替えるだけじゃなくてみんなで食べれば無駄にもならないし、工夫して美味しく食べられる方法を探したり、市販の非常食だけでなく災害時にもできる調理法を紹介し合って試したり、たくさん情報共有もできました。今後もいろんなやり方を探りながら、防災について考える機会は続けていきたいです」
高円寺アパートメントで生まれている日常や関わりなどを住まい手目線でお伝えします。
暮らしているからこそ見えてくる、アパートメントの日々をのぞいてみてください。